2019年03月01日

[読書]上野千鶴子(2018)『情報生産者になる』筑摩書房



情報生産者というタイトルが気になって読みました。
著者は元東京大学の教授の上野千鶴子さんです。

本書は,情報消費者から情報生産者になるために,社会学をベースにした研究の手続きについて具体例を交えながら解説する本です。
社会学研究の入門書という位置付けになります。

梅棹さんの知的生産の技術や川喜田さんのKJ法についても触れられています。


問いについて


問いを立てるには、センスとスキルが入ります。スキルは磨いて伸ばすことができますが、センスはそういうわけにはいきません。センスには現実に対してどういう距離や態度を持っているかという生き方があらわれます。
pp.17

問いとはつねに主観的なものです。それは「わたしの問い」であって、「あなたの問い」では無いからです。「わたしの問いは私にしか解くことができない、なぜならわたしはわたしの専門家だから」というのが「当事者研究」の出発点でした。
主観的な問いに、経験的な根拠を示して、有無を言わせぬ結論に導く・・・のが、経験研究と言うものです。そしてその「問いの出発点はつねに「わたし」からなのです。
pp.104


問いは,明らかにしたい事柄を指します。
何をどのように明らかにしたいのか?実現可能か?などを考えなければいけません。

問いは自分の中にあり,それをつきつめていく作業であること。
問いとセンスを結びつけるというのがなるほどと思いました。

自分にしか明らかにできないもの,自分だから明らかにできるもの,自分が明らかにしたいもの,そしてそれは主観的につきつめていく作業。

自分にスキルがあるとは思いませんが,圧倒的に足りないのはセンスであるということは,研究ではないですが,日々実感するところでもあります。

質的研究



社会学が取り組んできた質的研究の方法について具体的に描かれています。

情報の再文脈化とは、情報の集合のあいだにある、当事者も気づかないような隠れた「構造」を発見する作業でもあります。そしてその構造を時間軸に沿って物語る・ ・ ・ことを「説明」とか「解釈」と呼ぶのです。なぜならそこでは、話者でもなく聞き、とって「理解可能」な形で、情報が加工されているからです。
pp.206


教育分野でも質的研究についての研究が取り組まれてきています。
インタビューで得られた成果を再文脈化し,新たな構造を見つける。
それは量的研究では明らかにできないものであり,価値があるものだと思います。

おわりに


タイトルからは想像できない研究入門書的な本です。社会学の研究の進め方について,勉強になりました。








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2018年12月25日

[読書]2018年の<びっくら本> #mybooks2018



【企画】2018年の<びっくら本>を募集します #mybooks2018 – R-style https://rashita.net/blog/?p=26351

募集があって時間があったのですが、書こうと思っていたら、過ぎてしまいました!

以前にもこの企画に参加しています。

[読書]2016年のびっくら本 #mybooks2016: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/445238550.html

[読書]2017年の<びっくら本>: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/455761932.html



教育関係





貝塚養護学校の実践を中心に、病弱教育が取り組んできた成果そのものが、今後のインクルーシブ教育を考えるにあたって必要な論点を含んでいることを明らかにしている。

生活指導の観点から病弱教育の取り組みを捉え直し、その価値を再考する視点はなるほどと思った。

[読書]猪狩 恵美子,楠 凡之,湯浅 恭正,貝塚養護学校の実践を考える会(2018)『仲間とともに育ちあう貝塚養護学校』クリエイツかもがわ: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/461698590.html



ライフステージごとの実践記録が収録されており、カリキュラムマネジメントの言葉はないが、指導を関連付けて取り組んでいる例や学習評価のあり方を問い直したり、実践を考える中で参考となる視点が包含されています。


[読書]全国障害者問題研究会兵庫支部・木下 孝司・川地 亜弥子・赤木 和重・河南 勝(2017)『実践、楽しんでますか? 発達保障からみた障害児者のライフステージ』クリエイツかもがわ: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/458661961.html



情報生産者という言葉は,知的生産を連想させるような言葉ですが,学問としての社会学を中心とした研究方法的な視点で解説された研究入門書としての位置付けの本です。

知的生産・ライフハック





Scrapboxというツールを使うようになったきっかけの本として、情報整理のあり方を変えた本として、やっぱりこの本が挙げられます。
Scrapboxの使い方について書かれていますが、なぜScrapboxで情報整理をするのかについて、これまでの情報整理の論点を整理している点において、参考になります。

[読書]倉下忠憲(2018)『Scrapbox情報整理術』シーアンドアール研究所: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/460979115.html




学生向けのライフハック本です。
タイトルにあるように、法学をメインにしており、後半は法学の話が中心になっていますが、レポートをまとめるための技術、時間管理などが学ぶことができる本です。


[読書]横田明美(2018)『カフェパウゼで法学を―対話で見つける〈学び方〉』弘文堂: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/460539555.html

小説





藤井太洋さんの小説。近未来の短編をまとめた小説で、現在あるガジェットが結構出ています。単純に面白い。



マンガ





CICADA楽しみにしていたのに,連載が終了して残念です。出版社の枠を超えて,いろいろなマンガのキャラクターが出てきて,ストーリーと結びつけるのがすごいなと思っています。



BEASTARSは山田玲司のヤングサンデーで紹介されていたマンガです。肉食動物と草食動物というわかりやすい構図で,種族をこえた関係性や自己とは何かを問い直す物語を提示している点が面白い。




おわりに


2018年を振り返っての記録です。本自体はもっと読んでいますが,ブログには書けていないものもあります。
ブログの読書記事を増やしていきたいなと思います。


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2018年11月01日

[読書]小林裕紀・兼宗進編著(2017)『コンピューターを使わない小学校プログラミング教育 "ルビィのぼうけん"で育む論理的思考』翔泳社



なぜ読もうと思ったか?



2020年からの学習指導要領改訂に合わせて、現在移行期間中になっています。
プログラミング教育が導入されるということは、特別支援学校においても同様のこととなります。

通常学校におけるプログラミング教育とは、どのように進められているのかという点について勉強したいと思い、本書を読みました。


どんな本



本書は、コンピュータを使わないプログラミング教育としての実践例が全ページカラーで解説されています。



目次は下記の通りです。

●はじめに/小林祐紀(茨城大学教育学部 准教授)
●2020年指導要領改訂と小学校教育/小林祐紀(茨城大学教育学部 准教授)
●プログラミング教育と論理的思考/兼宗進(大阪電気通信大学工学部 教授)
●リンダ・リウカス(『ルビィのぼうけん』原作者)からのメッセージ
●授業の実践例
【第3学年】
国語「心にのこったことを」
算数「3けた×2けたの筆算のしかたを考えよう」
算数「筆算のまちがいを見つけ、正しく直そう」
算数「二等辺三角形をかこう」
理科「身の回りのものを見分けよう」
音楽「はくの流れにのってリズム遊びを楽しもう」
【第4学年】
算数「いろいろな図形の特徴」
【第5学年】
国語「伝えたいことをしぼろう」
社会「日本の気候の特色」
算数「まとまりをみつけて」
学級活動「真偽クイズで個性発見! 」
【第6学年】
外国語活動「Go straight ! 」
●『ルビィのぼうけん』を知る先生たちのメッセージ


プログラミング教育の動向について分かりやすく書かれています。

そもそものプログラミング的思考の定義を引用しながら、プログラミング言語を学ぶ時間でないことを説明しています。


自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたら良いのか、記号の組合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力


コンピュータを使わないプログラミング教育のことを「アンプラグド」と言っており、本書の中では下記のような考え方を取り入れた実践が紹介されています。



●計算や作業な手順に分けて順序立てる「シーケンス」の考え方
●手順のまとまりを繰り返して実行する「ルーカの考え方
●条件によって作業を切り替える「分岐」の考え方
●ものごとをYes/Noの組み合わせで考える「真偽値」の考え方
●ものごとの性質や手順のまとまりに名前を付ける「抽象化」の考え方

その他にも、「最初から完璧なものを作らなくても、少しずつ実行して直しながら完成させていけばよい」というデバッグの考え方も体験することができました。コンピューターを使うと、文書やプログラムを何度も修正しながら作成していくことが容易に行えます。
このようなコンピューターの性質を理解して、適切に活用することも貴重な体験です。
P9


どの実践例でも事物の操作や比較などの活動を取り入れて取り組んでいます。

その中でも、特別支援学校でも使えそうだなと感じたのは、理科の条件分岐と音楽のループです。

体験を通じてという点は共通していますが、より体験の度合いが強く、現在実施されている授業の形態に近いことから、受け入れやすいのではないかなと感じました。

もちろん、本書でも指摘されている通り、プログラミング教育があっての、アンプラグドの実践なので、プログラミング教育でやっていたことがアンプラグドな実践とつながりがあることを実感できるようにしなければいけません。

では、どのように特別支援学校でプログラミング教育を実施するのかという点については、まだまだ検討が必要です。

おわりに



本書では、プログラミング教育のアンプラグドな具体的な実践例が解説されていました。

理科の電気の実験に取り組んだことがあります。
あれは、条件分岐なのかと自分の中でつながったので、他の実践例でも自分が取り組んできたものとつながるものがあるかもしれません。

プログラミング言語を覚える教育ではなく、プログラミング的思考を育てる教育と考えた時に、特別支援学校では何ができるのか?ということについて考えていきたいです。

[特別支援教育]特別支援学校における理科の授業例1 電気の実験: pmastyle
http://pmastyle.seesaa.net/article/434534650.html


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2018年10月01日

[読書]三木裕和監修、鳥取大学附属特別支援学校著(2017)『七転び八起きの「自分づくり」知的障害青年期教育と高等部専攻科の挑戦』今井出版



なぜ?


特別支援学校の高等部専攻科の取り組みについての本だからです。
高等部卒業後の学びの場としての専攻科は、数が少ないです。
福祉サイドから学びの作業所、福祉型専攻科と青年期の学びを支える場所が少しずつ増えてきています。

青年期教育をどのように考えるのか?
また、専攻科として積み上げた10年を振り返る形で、何を学ぶのかということについて考えていきたいと思い、本書を読みました。


どんな本


本書は、知的障害特別支援学校の高等部専攻科における取り組みについてまとめられたものです。三部構成になっており、実践、調査、理論としてまとまっています。

目次は下記の通りです。

第1部 実践編 高等部専攻科における青年期教育の実践(国公立初の高等部専攻科誕生から10年
高等部専攻科の教育
青年期の「自分づくり」を支援する授業
5領域の実践例
変容していく姿 それぞれの自分づくり)
第2部 調査編 修了生への悉皆調査からみる専攻科での青年期教育の意義と今後の課題
第3部 理論編(専攻科設置の源流と経緯
教育年限延長の要求運動と青年期教育の意義
知的障害と青年期教育―「9・10歳の発達の節目」に挑む人たち)
メッセージ(教職員OB
修了生
修了生保護者)




専攻科の教育課程は、青年期の自分づくりを目指すために、「くらし」の学習を土台とし「教養」「研ゼミ」「労働」「余暇」が土台になっています。10年間の取り組みの中で、「くらし」の学習が土台になっていったということが成果として描かれています。

「七転び八起きの自分づくり」の学習スタイルは何事もまずやってみることから始め、自分を客観的に振り返り再チャレンジするものです。

生徒たちの自主性を尊重し、計画・立案、実行し、振り返って問題を解決するプロセスを大事にし、これを繰り返すことで自分づくりが進むものとして考えられています。

例えば、調理学習では、同じ料理を取り上げ、実践・振り返りを通じて、問題解決のプロセスとして取り上げています。


◯失敗からの学びを重視する。(成功のためのおぜんたてはしない)
◯失敗への気づきを促す。
P35


失敗からの学びを重視する。というのは、なかなか難しいです。
どうしても、教師という立場だと支援してできるようにするという考え方が強いので、待つことに抵抗感があるかもしれません。

失敗したからこその学びというものがあるはずです。失敗することを保障する。
失敗することで、どんなことに気をつけなければいけないのか?ということが、自分の問題として考えることができます。
そして、それは教師が指摘して分かるよりも、貴重な学びの場になっています。


青年期教育




専攻科での経験が、成功体験による自己肯定感を高めることに止まらず、うまくいかなかったときの解決方法を考える過程を繰り返すことで、人との関わりの中で、自分を客観的に見られるようになってくる。このような一端自分崩してをしてからの、自分づくりへの成長過程を「自分らしさの再構築」または、「価値感の再構築」と考えています。
P47

青年たちの生涯をみすえて、何を青年期の教育課題としていくかを真剣に考える必要があるでしょう。その際、自分づくりの主体は青年本人であることを忘れてはいけません。自分の手で自分の殻を壊していく「自分くずし」を経て、自分の手で「自分づくり」を行うという青年期の発達課題の特徴を理解したうえで、その営みを組織化していく取組みこそ「青年期教育」であると言えるでしょう。
p152



「自分くずし」「自分づくり」の過程として、青年期を位置づけています。
高等部から入学した生徒たちの中には、二次障害を抱えていることがあります。自分の殻から抜け出ることから時間がかかります。
青年期に必要な時間の問い直しという点からも青年期の学びそのものを問い直す点が求められています。

問い直しという点から、三木さんは、ある生徒指導の先生からの生徒が自己理解できていないことの相談のエピソードから、青年期の自己理解について取り上げています。

自己理解という言葉そのもののもつ意味とは何か?
自己理解という名のもとに、「劣弱性の自覚」に追い込んでいるのではないか?

さらには、学会のシンポジウムで提案された他者理解についても批判的に取り上げています。


知的障害青年において、彼らがもっとも言いたい台詞は「でも、同じ人間のはずだ」であろう。障害の自己理解という命題は、こう言い直すべきだ。彼らに必要な自己理解は劣弱性の自覚ではない。「人間としての誇り」の獲得なのだと。P178


「人間としての誇り」の獲得を目的に青年期教育が目指してきたものとして、本書を読み直すと、「自分づくり」の意味合いが変わってきそうです。

おわりに


数少ない高等部専攻科の取り組みについてまとめられた本です。

青年期という時期にあたって、高等部での授業づくりについても問い直しの必要性に迫られた本です。

「自分づくり」を大切にする取り組みとは何か?
自己理解と安易に使ってしまっているがその本質とは何か?
改めて考えさせられました。


澤田淳太郎・野波雄一・三木裕和(2017)「鳥取大学附属特別支援学校専攻科10年の成果と課題―修了生の悉皆調査から―」『人間発達研究所』第30号P62〜78
http://www.j-ihd.com/bhd30-05.pdf


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2018年09月17日

[読書]猪狩 恵美子,楠 凡之,湯浅 恭正,貝塚養護学校の実践を考える会(2018)『仲間とともに育ちあう貝塚養護学校』クリエイツかもがわ



なぜ?



この本を読もうと思ったのは、湯浅先生が執筆していたからです。
湯浅先生の本は、特別支援教育の授業づくりにおいてこれから考えなければならない課題をたくさん提示していただいたので、この本を読んで勉強しようと思ったからです。

なぜ、病弱養護学校の実践記録なのかというところで、つながりがよくわからなかったから逆に読んでみたいと思いました。


どんな本?



本書は、既に閉校した貝塚養護学校の実践記録と特別支援学校における現代的課題を結びつけて論じている本です。

第1部 生きづらさを抱える子どもと貝塚養護学校の教育実践
第2部 病弱・身体虚弱教育と貝塚養護学校の歩み
第3部 貝塚養護学校が問いかけているもの


なぜ、今病弱養護学校なのか?というところが気になりますが、この実践記録を読んでみると、この貝塚養護学校が果たしてきた役割というのは、私が想像していた病弱養護学校とは全く異なるものでした。

貝塚養護では、まだ、発達障害という言葉さえ知られていなかった時期から、心身の不調、勉強嫌いや学習の遅れ、友人関係・集団参加でのつまずき、家庭での養育困難などを抱えた子供たちを受け止めてきた実践が多く蓄積されていました。そのため、特別ニーズ教育の視点から、貝塚養護学校のような寄宿舎がある養護学校は、特別支援教育時代に求められる大切な学校だとして大いに期待が寄せられました。P190



初めに読んだ印象としては、この実践記録って通常学校にも参考になる実践記録であり、子どもを読み解くという意味では自立活動の実践記録とも言えるものではないかと思いました。

湯浅先生は次のように指摘しています。

通常の学校において1人の生きづらさを抱えた子どもの周囲には、何人もの困難さを持つ子供たちがいます。貝塚養護の子どもたちの問題は、通常の学校で生活する多くの子どもの問題につながっているはずです。障害児を含めて自立支援に特別な配慮を要する子どもにとって必要な学校の論理を探る-そこから通常学校を改革するための多くの示唆を得ることができるのだと思います。生活や学びの場は離れていても、すべての子どもたちに開かれ、つながり合うことのできる世界とは何か、その探求が改めて求められています。インクルーシブ教育は、通常(Ordinary)の教育を絶対化するのではなく、共に生きる(Common)の世界を創造することだからです。P224


この貝塚養護学校が蓄積してきた実践は、生活指導の文脈に位置づけられる実践です。特別支援教育が始まる前から、貧困などの現代的課題に向き合ってきたのです。

今回の学習指導要領の改訂で、自立活動に新たな項目が追加されました。「健康の保持(4)障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること」です。この自立活動に参考となるような実践が紹介されています。

おわりに



この本の読み方としては、猪狩先生の論考から読むと病弱教育がどのようなもので、どのように発展してきたのか、貝塚養護学校の特徴が分かります。

病弱特別支援学校が人数の減少を理由に閉鎖されていっています。貝塚養護学校の実践を残していかないといけないですし、もっと病弱特別支援学校の実践が注目され、広がっていかなくてはならないと強く感じました。








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